第222項!!三文小説!集中するには筋肉に力を入れるという似非科学が横行しています!!ご注意を – Inishie R plusA – A three-penny novel! There’s a fake science going around that says you need to tighten your muscles to concentrate! ! Please be careful

僕はあることに気づいた。人間関係で大事なのは何よりも相手を思いやることだ。

僕は大学で物理学を専攻しているけど、物理の法則は人間関係に適用できないかと常に考えている。大学の教授たちは物理学に関して何でも知っているように見えるけど、物理学という学問の特殊性つまり自分が存在している、この世界に本当に物理学のような法則が働いているのかという疑問は解決される日が来るのだろうかといった点が僕は気になる。

僕のような三文学生は世の大学に吐いて捨てるほどいるのだろうけど、世の中は上手くできているもので特段勉強以外の何かに困ったことはない。僕の目の黒いうちは周囲で怠けている同級生はいないだろうし、おカネの心配もすることはない。

僕の左手が触れたものを黄金にできるなら、この大学生活でさえ捨ててしまうかもしれないし、世捨て人のように森の中にお手製のログハウスを建てて引きこもりの自給自足生活を満喫することだろう。

ある人は言った。連想していって思いついたアイデアをエピソードにする。僕は思いついたアイデアをノートに取るのだが、ノートの隅々までご丁寧にアイデアを書き記すためにノートがペンのインクで真っ黒になってしまう。

そのノート、ポイ活しますか。売店の女の子が僕のノートを見て冗談めかして言ってくるのだが、僕は取り合わず500mlの青春牛乳を一本購入するのだ。僕も小説の一つでも書けたら良いのだが、僕の書く小説は恋愛ホラー系のライトノベルになるだろうし、僕の手から生まれたものは僕にそっくりなんだろうなと思わず笑ってしまう。

触れたものが黄金になるのであれば、触れたものが仲間になるのは同じくらい価値のあることだろうと、僕は空を見上げる。今まで鳥になりたいと多くの人たちが思ってきただろうけど、僕はカラスになりたいという変なやつなのだ。

カラスは良い。戦い合っている人たちの間に割って入って第三者的に美味しいところを持って行く。昔の童話にそんなコウモリみたいなのがいたな、最後はどうなったっけ、と思いつつ、僕はさっき買った牛乳を半分飲んで、カバンから例の箱を取り出す。

その箱には大きくゼラチンと書かれているのだが、僕は迷わず残りの牛乳が入ったパックにゼラチンを突っ込む。牛乳パックの注ぎ口を持ちながら10回ほどシャッフルしてみる。あとはご想像にお任せくださいとばかりに謎の液体が出来上がった。

そこに僕の知人Aがやってきた。知人Aというからにはエキストラ志望なのかなと思っていたが、どうやら僕に金の無心をしようと思ったらしい。僕に1万円だけ貸してと言い寄ってくるのだが僕は先程の売店で貰ったお釣りのいくらかを渡して、すまん僕もカネがない。他を当たってくれとダメ出しをすることにした。

知人Aはそそくさと、その小銭をもって撤収したのだが、また1時間もしたら会うことになるはずだ。清々したい。

僕は物理学だけでなく医学にも興味があるのだが、人間の体とは面白いもので、集中するためには筋肉に力を入れると良いらしい。これは知人Bが主張していた似非科学の類だが、脇の下に手を挟みながらパソコンの画面を凝視すると発達障害の過集中のような神がかった集中力を得られると吹聴していたのだ。

どれ、筋肉に力を入れるのだな。僕はカバンから文庫とボールペンを取り出し、ボールペンを握りながら近くのベンチに座って本を読み始めた。おっ!なるほど。これは似非科学だ。思った以上の成果が出る。知人Bは得意顔でしてやったりとニヤついていた気持ちがわかる。

僕はそのまま30分ほど三体問題について書かれた文庫を読み続けたのだ。集中状態で気づかなかったのだが、ふと僕の前に誰かが立っている。ゾクッと、驚いたのだが、それは知人Cだった。知人Cはバリバリの経済学部で将来はメガバンクに就職すると息巻いているのだが、成績はあまり良くないようだ。

学生の性分である勉強も程々にパチンコなどのギャンブルに入れ込んでいるのだ。知人Cは僕に何をしているのか尋ねてきた。僕は見ればわかるだろうと文庫を前に突き出した。知人Cはいつもと雰囲気が違うので気になったから声をかけてみたと弁明するので、僕は知人Bの集中法を実践していたことを思い出した。

僕は知人Bとの会話から今に至るエピソードとその成果を知人Cに語った。知人Cは飛んで喜び、また後で試してみるよと僕の前から去っていった。

そこへ知人Aが来て、再び金の無心をしようとしているのかと訝った僕は逃げようとしたが、知人Aは僕に小銭を手渡してきた。数えてみると先ほど渡した小銭と同額だったので、どうしたんですかと聞いてみた。知人Aは思いがけなく書いていた小説が賞を受賞して10万円ほどの賞金がもらえることを僕に話した。

僕は知人Aの思いがけない活躍に自分が小説を書けるのかと自信がなくなってきたのを感じることができた。僕に金の無心をするAが僕より小説という点では先を行っている。僕は宇宙の真理とは複雑で、何かが足りないものは他の部分で多くを得ていることを確信することになった。そうだ。世界の真理について研究者のようになろう。

Aは僕の先輩で羽振りの良いときは気前よく奢ってくれるのだが、金のないときは僕に金を借りようと催促してくる。僕は毎回なので慣れて嫌ではないが、本当にAが社会人としてやっていけるのか個人的に心配している。

Aは先輩ではあるけど後輩の僕に敬語で話しかけてくる。そこだけはきちんとしているんだな、と感心するのだけど、後輩にまで敬語を使う同級生や先輩は少ない。上下関係が大事であるという日本的な文化は儒教の影響があるという話をどこかで聞いたが、実力以上に評価が高い人は丁寧な話し方で上下関係についても良く分かっている。

僕も大学生になるまで帰宅部でクラブに入ったことが無かったから体育会系の上下関係については良くわからなかったのだ。しかし、Aはお金の無心はするが、体育会系のルールなど僕が知りたい暗黙のルールを分かりやすく教えてくれる。それがなく、ただ金の催促だけをしてくる先輩であったなら、とっくの昔に逃げていたことだろう。

冗談はさておき、僕はAにオメデトウと祝福の言葉を浴びせる。Aは先ほど金の催促をしていたのを忘れたかのように今度奢ってあげるよ、と10万円で気が大きくなっている。

そこでチャイムが聞こえる。そろそろ授業の時間だ。急いで行かないと点呼に遅れて欠席扱いになる。僕はAに別れを告げ、同じ物理学部の知人Bを見つけて実験成功したよと笑いかけた。おお!そうだろ!世紀の発見だ!僕たちは興奮しながら物理学について何でも知っているかのような教授の待つ教室に向かうこととなった。

コメント

  1. Inishie Tokito より:

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